当社では所得税法上の控除対象配偶者を有する者に、月1万円の家族手当を支給しています。
控除対象配偶者であることが否認された場合、さかのぼって返還を求めます。
一括では酷にも感じられますので、6ヵ月の分割返還としています。
6ヵ月にわたって毎月の賃金から控除するのは、全額払いの原則に抵触するのでしょうか。
【長野・N社】
労基法第24条第1項は「賃金は、・・・その全額を支払わなければならない」と規定しています。
本来、賃金は現実に履行期にある賃金の全額を支払うべきものであり、過去の過払い分といえども翌月分以降の賃金から控除することは、その月分の賃金についていえば、全額払いの原則に違反することになります。
しかし、行政解釈は「前月分の過払賃金を翌月分で清算する程度は賃金それ自体の計算に関するものであるから、法第24条の違反とは認められない」(昭23・9・14基収第1357号)としています。
また、最高裁判例では「あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか」、「労働者の経済生活をおびやかさないもの」であって、「過払いのあった時期と賃金の精算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期において」であれば、「法第24条の禁止するところではない」(福島県教組事件、昭44・12・18判決)としています。
つまり、過払い分を賃金から控除するには、1.合理的に接着した時期においてされること、2.その金額、方法などが、労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれがないものであること―の2つを満たしていなければならないわけです。
なお、「合理的に接着した時期」は、一般に過払い後2、3ヵ月程度の期間と考えられます。
ご質問の場合、1年前にさかのぼって過払い賃金を清算するものですから、過払賃金の清算には該当しないと考えられます。
ですから、過払い分を毎月の賃金から控除するのではなく、別途、返還してもらうようにすべきです。
ところで、労基法第24条第1項の全額払いの例外として、「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、賃金の一部を控除して支払うことができる」と規定しています。
この規定により、控除対象配偶者が否認されたことにより過払いとなった家族手当を6ヵ月にわたって控除する旨の協定を締結していれば、適法な控除が可能と考えられます。
したがって、過払いとなった家族手当を月々の賃金から6ヵ月にわたって控除するには、賃金の一部控除協定を締結しておかなければなりません。
協定書の様式は任意ですが、少なくとも、1.控除の対象となる具体的項目、2.その項目別に定める控除を行う賃金支払日を記載しておく必要があります。
【平成16年:事例研究より】