従業員が労災で労働基準監督署に労災保険の請求書を提出しますと、監督署では労災保険を支払うかどうかを決定します。
この場合に労災かどうか労使でもめているときには、会社でも決定理由を知りたいと思うことがあります。
そんなときは、監督署に決定理由について質問すれば、その内容を説明してもらえるものでしょうか。
【長崎・S社】
労働者が労災事故に被災すると、労災保険給付について支給決定請求権が発生します。
この請求権の時効については、労災保険法第42条に規定するところにより、補償給付の種類に応じて2年もしくは5年です。
したがって、労災であると考えた労働者は、この時効の期限内に療養補償給付やその他の給付の支給決定の請求書を労働基準監督署長に提出することになります。
提出を受理した署長は、その内容を審査して支給決定もしくは不支給決定を行います。
この、「決定」は、いわゆる「処分」ですから、労災保険法施行規制第19条第1項の規定により、処分の内容を請求人に対して通知することになります。
右の「処分」が「支給決定」であれば、請求人(労働者やその遺族)は労働基準監督署長に対して保険金の支払い請求権を取得し、逆に署長側は、その請求に対して支払う義務が発生します。
そして、この支払請求権の時効については会計法第30条の規定により5年ということになります。
また、「処分」が不支給決定であった場合には、請求人が不支給決定のあったことを知った日の翌日から起算して60日以内に労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行うことができます(労働保険審査官および労働保険審査会法第8条第1項)。
審査官は、都道府県労働局労働基準部労災補償課に置かれています。
通知の内容 以上の説明により、保険給付の請求人に対しては、労働基準監督署長が保険給付についての支給決定または不支給決定の処分内容を通知することになっています。
ところが、その請求人である労働者を使用しているか使用していた会社に対しては通知することになっていません。
では、請求人に対して通知される処分の内容については、具体的にどの程度のことが記載されているものでしょうか。
例えば、処分が「不支給決定」である場合でも、その不支給になった理由としては、事業主(会社)と政府との間に労働保険関係が成立していなかった場合(暫定任意適用事業で未加入)もあるでしょうし、請求人と事業主との間に労働関係がなく労働者に該当しないと認められる場合もあるでしょう。
また、療養補償給付の場合には療養効果がないと判断されたり、障害補償給付の場合には障害に該当しないとされることもあるかもしれません。
では、それらのことが処分(不支給決定)の通知書に詳細に書かれているかといいますと、労働基準監督署では大量の保険給付事務を処理していますのでとても無理でしょう。
しかし、その処分の内容がよく分かりませんと、請求人は審査官に対して有効な審査請求を行うことが困難なこともあるかもしれません。
では、そんな場合にはどうしたらよいでしょうか。
内容の説明 不支給決定を受けた請求人が審査請求する場合に、その理由を知ることは大事です。
例えば過労死の場合でいえば、不支給決定処分の行われた理由が、1日の長時間労働の長さが不足であったのか、それとも長時間労働の行われた期間が長くないと評価されたのか、それとも基礎疾病や既存疾病の重症の程度に問題があったのか ということにより、審査請求で争う場合の戦術の重点も相違してくるかもしれません。
したがって、請求人に対しては、労働基準監督署でも処分の内容について説明してもらえるはずです。
では、請求人を使用している会社についてはどうでしょうか。
会社には、その使用している社員である労働者に対して安全配慮義務がありますので、有効な安全衛生対策を講じなければなりません。
そして、有効適切な安全衛生対策を樹立するためには、労働基準監督署長の保険給付決定処分の内容を知る必要のあるときもあります。
例えば、過労死の発生を予防するためには、1日の労働時間の短縮に重点を置くのかそれとも残業の継続期間の短縮に重点を置くのかという具合です。
したがって、その必要な限度で労働基準監督署も説明要求に応ずるのではないでしょうか。
では、労使以外についてはどうかといいますと、請求人のプライバシーの問題もあり、余程の場合でない限り原則的には難しいのではないかと考えられます。
【平成16年:事例研究より】