出産したときの非常時払い請求者は従業員本人に限られるか【平成16年:事例研究より】

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労働者に出産、疾病、災害等の不時の出費を必要とする事情が生じた場合、支払い期日前であっても、既往の労働に対する賃金を請求することができることになっています(労基法第25条)。

「労働者」と規定されており、出産の場合に限れば、非常時払いの請求をできるのは、女性労働者本人の出産に限られるのでしょうか。

妻の出産は対象にならないのでしょうか。

【千葉・M社】

労働者本人の「出産、疾病、災害」に限らず、その「労働者の収入によって生計を維持する者」の出産、疾病、災害も非常時払いの対象となります。

労基法第25条は「使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない」と定めています。

「厚生労働省令で定める非常の場合」として、次の場合が労基法施行規則第9条で定められています。

1.労働者の収入によって生計を維持する者が出産し、疾病にかかり、又は災害をうけた場合 2.労働者又はその収入によって生計を維持する者が結婚し、又は死亡した場合 3.労働者又はその収入によって生計を維持する者がやむを得ない事由により1週間以上にわたって帰郷する場合 この「労働者の収入によって生計を維持する者」とは、労働者が扶養の義務を負っている親族に限らず、労働者の収入で生計を営むものであれば、同居人であっても差し支えありません。

逆に、親族であっても独立の生計を営む者は含みません。

したがって、労働者本人の出産に限らず、妻の出産も非常時払いの対象となります。

労働者が支払期日前の支払いを請求することができ、使用者がこれに応じなければならない賃金は、「既往の労働に対する賃金」です。

たとえば、前月21日から当月20日までを賃金計算期間とし、月末が賃金支払日と定められている場合、労働者が10日に非常時払いを請求したとすれば、使用者に支払いを義務づけられるのは、前月21日から当月10日までの労働に対応する賃金です。

特約のない限り、未だ労務の提供のない期間に対する賃金を支払う義務はありません。

月給で賃金が定められている場合は「既往の労働に対する賃金」は労基法施行規則第19条の規定により日割計算して算定します。

また、労働者の請求が既往の労働に対する賃金の一部であるときは、その請求のあった金額を支払えば、差し支えありません。

非常時払いの請求があったとき、使用者は何日以内に支払わなければならないかということについては、とくに法の定めはありません。

非常時払いということの性格上、できるだけ早く支払うべきでしょう。

非常時払いの賃金についても労基法第24条第1項(通貨払い、直接払い、全額払い)の適用がありますが、締切日以前において計算が困難な賃金については、概算払いで足りるとされています。

【平成16年:事例研究より】