労災とは

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労災保険とは

労災保険とは、労災保険法に基づく制度で、業務上災害または通勤災害により、労働者が負傷した場合、疾病にかかった場合、障害が残った場合、死亡した場合などについて、被災労働者またはその遺族に対し所定の保険給付を行う制度です。

労働者を1人でも使用する事業は、適用事業として労災保険法の適用を受けることになり、加入の手続を採らなければなりません(保険関係成立届の提出)。

ただし、個人経営の農業・水産業で労働者数5人未満の事業、個人経営の林業で労働者を常時には使用しない事業などは除きます(「失業保険法及び労働者災害補償保険法の一部を改正する法律及び労働保険の保険料の徴収等に関する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令17条」、「失業保険法及び労働者災害補償保険法の一部を改正する法律及び労働保険の保険料の徴収等に関する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令第17条の規定に基づく厚生労働大臣が定める事業」(昭50・4・1労働省告示35号))

この「使用する」とは、労働契約関係にあるという意味に解されていることから、派遣労働者については派遣元事業主を労災保険の適用事業とすることとされています。

また、法人の取締役、理事等の地位にある者であっても、法令等の規定に基づいて業務執行権を有すると認められる者以外の者で、事実上、業務執行権を有する取締役、理事等の指揮、監督を受けて労働に従事し、その対償として賃金を得ている者は、原則として労働者と取り扱うこととされています。

労災通勤

労災保険では業務災害と通勤災害が保険給付の対象とされています。

通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を合理的な経路および方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとされています。

しかし、労働者が移動の経路を逸脱し、または移動を中断した場合には、逸脱または中断の間及びその後の移動は通勤とはされません(労災保険法7条)。

ただし、逸脱または中断が日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱または中断の間を除き通勤とされます。

通勤と認められる要素
  1. 住居と就業の場所との間の往復
  2. 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動(複数就業者の事業場間の移動を指す)
  3. (1)に掲げる往復に先行し、又は後続する移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る)(単身赴任者の赴任先住居と帰省先住居の間の移動を指す)

労災メリット制

労災保険率は、事業の種類ごとに定められていますが、さらに、一定規模以上の事業については、個々の事業ごとにその事業の収支率に応じて、一定の範囲内で労災保険率または保険料額を上下させ、事業主の労働災害防止努力を促進しようとする制度が設けられています。

これが、いわゆるメリット制です。

労災保険様式

下記より記入例をご覧いただけます。

労災保険様式記入例

労災休業補償、給付

労働者が業務上の傷病による療養のため休業し、そのために賃金が受けられない場合に休業補償給付が支給され、通勤災害による療養のため休業し、そのために賃金が受けられない場合には休業給付が支給されます。

休業補償給付または休業給付の額は、1日につき給付基礎日額の60%に相当する額で、休業の第4日目から支給されます。

ただし、所定労働時間の一部を休業した場合は、給付基礎日額と実労働時間に対して支払われる賃金との差額の60%の額となります。

休業のはじめの3日間は待期期間といい、業務災害による休業の場合は、事業主がこの間労働基準法の定めるところにより、平均賃金の60%の休業補償を行うことになります。

通勤災害による休業の場合は事業主の補償義務はありません。

障害補償給付

障害補償給付は、業務上の傷病が治ったあと身体に一定の障害が残った場合に支給され、障害給付は、通勤災害による傷病が治ったあと身体に一定の障害が残った場合に支給されます。

障害(補償)給付を支給すべき身体障害の障害等級は、労災保険法別表第一、第二にそれぞれ定められています。

障害等級第1級から第7級までは障害(補償)年金、8級から14級までは障害(補償)一時金が支給されます。

具体的な額は下表のとおりです。

障害補償年金、障害補償一時金
障害補償年金障害等級1級給付基礎日額の313日
障害等級2級給付基礎日額の277日
障害等級3級給付基礎日額の245日
障害等級4級給付基礎日額の213日
障害等級5級給付基礎日額の184日
障害等級6級給付基礎日額の156日
障害等級7級給付基礎日額の131日
障害補償一時金障害等級8級一時金給付基礎日額の503日
障害等級9級給付基礎日額の391日
障害等級10級給付基礎日額の302日
障害等級11級給付基礎日額の223日
障害等級12級給付基礎日額の156日
障害等級13級給付基礎日額の101日
障害等級14級給付基礎日額の56日

業務災害により死亡した場合に支給される年金、一時金

遺族補償給付は、労働者が業務災害により死亡した場合に遺族に支給され、遺族給付は労働者が通勤災害により死亡した場合、その遺族に対し支給されます。

遺族(補償)給付は、年金と一時金に分かれており、年金の支給対象となる遺族がいない場合には一時金が支給されます。

遺族(補償)年金の額は、遺族補償年金を受ける権利を有する遺族およびその者と生計を同じくしている遺族補償年金を受けることができる遺族の人数の区分に応じて以下のように決まります。

遺族(補償)年金の額
  • 1人

    給付基礎日額の153日分。ただし、55歳以上の妻または厚生労働省令で定める障害の状態にある妻にあっては、給付基礎日額の175日分とする。

  • 2人

    給付基礎日額の201日分

  • 3人

    給付基礎日額の223日分

  • 4人

    以上給付基礎日額の245日分

一方、遺族(補償)一時金は、原則として給付基礎日額の1000日分です。

また、遺族(補償)年金の権利を有する者の権利が消滅したときに、他に年金を受給できる遺族がいない場合には、給付基礎日額の1000日分との差額が一時金として支給されます。

労災にまつわる通院や治療費など

療養の給付内容
  1. 病院や診療所での診察
  2. 薬局での薬剤または治療材料の支給
  3. 処置、手術その他の治療
  4. 居宅における療養上の管理およびその療養に伴う世話その他の看護
  5. 病院などへの入院およびその療養に伴う世話その他の看護
  6. 移送のうち、政府が必要と認めるもの(労災保険法13条)

労災保険の特別加入制度

労災保険は、労働者の業務災害および通勤災害に対する保護を主たる目的とするものであり、事業主、自営業者、家族従業者など労働者以外の方は労災保険の対象になりません。

しかし、労働者以外の方のなかには、その業務の実態や災害の発生状況その他からみて労働者に準じて保護をすることが適当である方もいます。

これらの方を労災保険の適用労働者とみなして業務災害および通勤災害について保険給付等を行うのが特別加入制度です。

特別加入することができる方
  1. 中小事業主およびその家族従事者等(労災保険法33条1号、2号、施行規則46条の16)
  2. 一人親方およびその他の自営業者等(労災保険法33条3号、4号、施行規則46条の17)
  3. 特定作業従事者(労災保険法33条5号、施行規則46条の18)
  4. 海外派遣者等(労災保険法33条6号、7号)

労災健康保険

健康保険法1条では、労働者又はその被扶養者の業務災害(労災保険法に規定する業務災害をいう)以外の疾病、負傷若しくは死亡または出産に関して保険給付を行い、もって国民の福祉の向上に寄与することを目的とすると定めています。

保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはありません(労災保険法12条の5)。

自賠責保険と労災保険の併用は可能か

自動車事故の場合、労災保険の給付と自賠責保険など(自動車損害賠償責任保険または自動車損害賠償責任共済)による保険金支払のどちらか一方を受けることができます。

この場合、どちらを先に受けるかについては、被災労働者等が自由に選べます。

しかし、先に自賠責保険等からの保険金支払を受ける場合には、仮渡金制度や内払金制度を利用することによって損害賠償額の支払が事実上速やかに行われること、自賠責保険等は労災保険の給付より幅が広く、例えば、労災保険では給付が行われない慰謝料が支払われること、療養費の対象が労災保険より幅広いこと、さらに休業損害が原則として100%てん補されること(労災保険では60%)など被災労働者などにとって様ざまなメリットがあります(公益財団法人労災保険情報センター(RIC)のホームページより引用)。

うつ病や、パワハラなどによる精神疾患に関する労災

厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」(平23・12・26)によれば、「業務による心理的負荷評価表」に列挙された項目に基づくストレス評価を基準として、心理的負荷が強度なもの、極度の長時間労働など「特別な出来事」、「特別な出来事以外」が明示され、発病前おおむね6カ月の間の具体的出来事の平均的な心理的負荷の強度(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ)、心理的負荷の総合評価の視点、心理的負荷の強度を「強」、「中」、「弱」と判断する具体例に当てはめて評価します。

さらに、業務以外の心理的負荷、労働者本人の性質なども総合的に判断した結果、発病の有力な原因が業務にあると認められた場合に、業務上災害に認定されることになります。

腰痛による労災認定基準

業務上腰痛の認定基準(昭51・10・16基発750号)は下記の通りです。

災害性の腰痛と②それ以外の腰痛の2つに分かれます。
  1. 災害性の腰痛

    重量物の運搬作業中に転倒したり、重量物を二人がかり運搬する最中にそのうちの一人の者が滑って肩から荷をはずしたりしたような事故的な事由により瞬時に重量が腰部に負荷された場合などを挙げています。

  2. それ以外の腰痛

    腰部に過度の負担がかかる業務に比較的短期間(おおむね3カ月から数年以内)あるいは相当長期間(10年以上)従事する労働者に発症した腰痛ごとに類別し、重量物の重さの基準などそれぞれ具体的な作業例を挙げています。

じん肺労災の事例

中皮腫、肺がんなどを発症し、それが石綿にばく露する作業に従事していたことが原因であると認められた場合には、労災保険給付などが支給されます。

石綿との関連が明らかな疾病として、石綿肺、肺がん、中皮腫、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚があります。

じん肺法に定める胸部エックス線写真で、石綿肺の所見が得られているような場合、業務上の疾病として取り扱われます。

腱鞘炎労災の事例

腱鞘炎などの業務上外認定は、「上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準」(平9・2・3基発65号)によります。

腱鞘炎による労災認定要素
  1. 上肢等に負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事した後に発症したものであること
  2. 発症前に過重な業務に就労したこと
  3. 過重な業務への就労と発症までの経過が、医学上妥当なものと認められること、以上の要件をすべて満たす必要があります。

(1)の相当期間とは、原則として6カ月以上とされ、(2)や(3)の過重な業務とは、業務量に応じその状態が発症前10日から3カ月にわたって認められるかどうかで判断するとしています。

後遺症対策としての社会復帰促進等事業

症状が固定した(治ゆ)後においても、後遺症状に動揺をきたしたり、後遺障害に付随する疾病を発症させるおそれがあります。

必要に応じ予防その他の保険上の措置としてアフターケアを社会復帰促進等事業として実施しています。

「労働福祉事業としてのアフターケア実施要領」(平元・3・20基発127号)によれば、アフターケアの対象となる傷病は、せき髄損傷、頭頸部外傷症候群等など約20種類となっています。

アフターケアの範囲は、診察、保健指導のほか精神療法やカウンセリングも含みます。

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