イラクで行方不明になると、危険地での死亡で遺族補償の対象になるか【平成16年:事例研究より】

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イラク関連の報道をみていて、心配になりました。

あのような危険地帯に滞在中、行方不明となった場合に、遺族年金はどうなるのでしょうか。

消息を絶って3ヵ月たてば、年金を受けられるといった規定があったように記憶します。

【神奈川・P男】

遺族厚生年金は、厚生年金の被保険者等が死亡したとき、一定範囲の親族に支給されます(厚生年金法第58条)。

ここでいう「死亡したとき」には、行方不明による死亡の推定、または失踪宣告を含みます。

まず、死亡の推定ですが、厚生年金法第59条の2に「船舶、航空機の事故で行方不明等になってから生死が3ヵ月間わからない場合、または死亡が3ヵ月以内に明らかとなり、かつ死亡の時期がわからない場合には、事故の日に死亡したものと推定する」という独立した規定があります。

ご記憶にある3ヵ月とは、この「死亡の推定」の規定を指すと思われます。

しかし、戦地等危険地で行方不明になったとしても、船舶・航空機に乗っていなかったときは、この規定は適用されません。

失踪宣告によるはかないという結論になります。

失踪宣告には、いわゆる普通失踪と特別失踪の2つがあります。

民法第30条では、「1.不在者ノ生死力7年間分明ナラザルトキハ家庭裁判所八利害関係人ノ請求二因り失踪ノ宣告ヲ為スコトヲ得2.戦地二臨ミタル者、沈没シタル船舶中二在リタル者、其他死亡ノ原因タルヘキ危難二遭遇シタル者ノ生死力戦争ノ止ミタル後、船舶ノ沈没シタル後又八其他ノ危険ノ去リタル後1年間分明ナラザルトキハ亦同シ」と規定しています。

第1.項が普通失踪、第2.項が特別失踪に該当します。

お尋ねのケースでは、特別失踪の規定が適用される可能性もあるでしょう。

危険地で行方不明になった場合、所定の期開か過ぎた後に失踪宣告を行い、それから遺族厚生年金(遺族基礎年金)の請求を出すという段取りを踏みます。

遺族年金ですから、受給の条件として、生計維持関係がないといけません。

しかし、普通失踪は7年後(期間満了のとき)、特別失踪は「危難ノ去リタル時」に死亡したものとみなされます。

この規定にそのまま従うと、たとえば普通失踪なら行方不明から7年後に故人と生計維持関係がないと、「死亡の当時、生計の維持関係にあった」という条件を満たすことができません。

特別失踪でも、行方不明の時期と危難の去りたる時の間で、タイムラグが発生します。

このため、厚生年金保険法第59条では、生計維持関係について、「死亡の当時(失踪の宣告を受けた被保険者であったものにあっては、行方不明となった当時)その者によって生計を維持したものとする」というカッコ書き付きの形で、条件を規定しています。

最初に述べた「死亡の推定」ついても、事故が起きた日に死亡したと推定するので、生計維持関係の認定上、問題はありません。

【平成16年:事例研究より】