従業員が遅刻した場合、その日に残業しても「遅刻者の残業には残業手当を支払わなくてよい」と聞いたのですが、何時間の残業まで残業手当をつけないでよいのでしょうか。
あらかじめ1時間以内の遅刻は1時間までというように、1時間単位で残業手当をつけない基準を定めておけばよいのでしょうか。
【青森 A社】
時間外労働として割増賃金(残業手当)の支払いが要求されるのは、法定労働時間(原則として1週40時間、1日8時間)を超えて労働させた場合です。
行政解釈は「労働時間が通算して1日8時間又は週の法定労働時間以内の場合には割増賃金の支給を要しない」(昭22・12・26基発第573号、昭33・2・13基発第90号)としています。
労基法の労働時間の規定の適用に当たっては、遅刻したかどうかは問題でなく、実際にその日に何時間労働したかが問題となります。
行政解釈は、「法第32条又は第40条に定める労働時間は実労働時間をいうものであり、時間外労働について法第36条第1項に基づく協定及び法第37条に基づく割増賃金の支払いを要するのは、右の実労働時間を超えて労働させる場合に限るものである。
従って、例えば労働者が遅刻した場合その時間だけ通常の終業時刻を繰り下げて労働させる場合には、1日の実労働時間を通算すれば法第32条又は第40条の労働時間を超えないときは、法第36条第1項に基づく協定及び法第40条に基づく割増賃金の支払いの必要はない」(昭29・12・1基収第6143号)としています。
ご質問では、1日の所定労働時間が何時間であるか明らかでありませんが、30分遅刻し30分残業、1時間遅刻し、1時間残業したとしても、その日の実労働時間は8時間(または所定労働時間)を超えませんから残業手当を支払う必要はありません。
しかし、遅刻した労働者が実際に就労した時刻から通算して実労働時間が法定の8時間を超えた場合には、残業手当を支払わなければなりません。
たとえば、所定労働時間が8時間の場合、30分遅刻し1時間残業したときは、30分の残業で実労働時間が8時間に達しますから、残り30分の残業に残業手当を支払わなければなりません。
遅刻者の残業には残業手当を支払わなくてもよいとは、遅刻時間に相当する残業時間に残業手当を支払わなくてもよいということです。
遅刻したため残業しても、1日8時間を超えないため残業手当が支払われなくなるにすぎません。
結果的には残業時間から遅刻時間を差し引くのと同じになりますが、法的にも差し支えありません。
残業時間が遅刻時間より多く、実労働時間が8時間を超えた場合には、その超えた時間には残業手当を支払わなければなりません。
したがって、1時間以内の遅刻は1時間までというように、8時間を超えた時間に残業手当を支払わないということはできません。
法が要求する割増賃金が支払われないことになり違法となります。
【平成15年:事例研究より】