5月31日にある社員に「明日から来ないでよい」と即時解雇を申し渡しました。
解雇予告手当もただちに支払うことにしていましたが、経理担当者の手違いから会社の給料日である6月10日に5月分の給料と解雇予告手当を支払いました。
ところが、解雇予告手当が支払われた6月10日までは当社の社員であると主張し、その分の賃金を請求していますが、解雇予告手当を支払うまでは労働関係は存続するのでしょうか。
【広島 K社】
労基法第20条は「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。
30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない」と規定しています。
30日前に解雇予告しない使用者は、予告に代えて30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。
つまり、30日分以上の平均賃金を支払えば即時に解雇することができるわけです。
解雇予告手当の法的性質については、即時解雇するための要件として法律が定めた特殊な性質の手当であり、解雇通告後に労働者が取得する債権としての性質を有するものではないと解されています。
「予告手当の支払いについては、使用者と労働者の間に債権債務の関係が発生することなく、予告手当の支払いは、単にその限度で予告義務を免除するに止まるものである」(昭24・1・8基収第54号)わけです。
解雇予告手当は、即時解雇の効力発生要件としてその支払いを法律が要求した特殊な性質の手当と考えられますので、「法第20条による解雇の予告にかわる30日分以上の平均賃金は解雇の申渡しと同時に支払うべきものである」(昭23・3・17基発第464号)とされています。
したがって、即時解雇の場合、解雇の申し渡しと同時に平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払わなければなりません。
解雇予告手当を支払うまでは解雇の効力は生じません。
ご質問の場合、5月31日に、「明日から来ないでよい」と即時解雇を申し渡しましたが、その意思表示が法律上効力が生じるのは、現実に解雇予告手当が支払われたときです。
解雇予告手当が支払われた6月10日にその社員に対する解雇が成立したことになります。
それまでの間は、その社員との労働契約は存続し、社員としての地位を有します。
6月1日から6月10日までの間は、使用者が解雇の意思表示をしたことによって休業したものですから、使用者の責に帰すべき事由による休業(労基法第26条)として、休業手当(平均賃金の60%以上)を支払う必要があります。
【平成15年:事例研究より】