障害年金のうち障害基礎年金は、初診日において国民年金の被保険者であった者、60歳以上65歳未満の国内居住者、または20歳未満だった者に適用され、1級と2級の2ランクに分かれます。
2級の障害基礎年金の額は、老齢基礎年金の満額と同額で、1級の額は2級の2割5分増しとなり、ともに扶養する子があればさらに加算されます。
障害厚生年金は初診日において厚生年金保険の被保険者であった者に適用され、1級・2級・3級の3ランクになっています。
通常は、障害基礎年金と合わせて受給できます。
2級の障害厚生年金の額は、老齢厚生年金の報酬比例部分の年金額で、1級はその2割5分増しとなり、ともに扶養する配偶者があれば加給年金額が加算されます。
また、被保険者期間が300月未満の場合は、300月加入していたとみなして計算します。
3級については、2級と同様に計算した報酬比例の年金額のみで加給年金額はつかず、障害基礎年金の受給要件を満たしていても障害基礎年金に3級がないため合わせて受給することができず、1・2級の場合と比べて少額になりますが、最低保証額が設けられています。
障害の等級について、たとえば人工透析を例にとると、経過良好でも透析を行っていれば2級に該当し、経過が不良であったり別の障害を併発していると1級になることもあるようです。
また、透析を行っていなくても検査成績が一定の基準を超え、日常生活に制限を強いられていた場合は、3級以上に認定される場合があります。
心臓疾患の人工弁を施している人については、経過が良好であっても3級には該当し、経過不良なら2級以上に該当するケースもあるようです。
障害年金の主な受給要件は3つあり、「加入要件」「保険料納付要件」「障害状態要件」があります。
この3つの要件のいずれにも、初診日の問題がかかってきます。
「加入要件」とは初診日に原則として年金制度に加入していることですが、例外があります。
20歳未満のときに初診日がある場合はこの要件は問われませんが、所得制限があります。
また、国内に居住していて60歳以上65歳未満の間に初診日があるときも、老齢基礎年金の繰り上げ請求などをしていない限り、被保険者でなくても障害基礎年金は支給されます。
初診日において「加入要件」を満たしていないと、障害基礎年金も障害厚生年金も支給されない場合が生じますが、一定の条件を満たす人については平成17年度より「特別障害給付金制度」が設けられています。
これは、年金制度への加入が強制ではなく任意加入とされていた時期に未加入であった人の福祉を増進する目的で実施されるもので、障害等級の1級および2級の該当者が対象です。
以下の期間中に初診日のある病気やケガで障害の状態になった人に適用されます。
尚、この特別障害給付金の受給には所得制限があります。
この要件があるため、学生等でも20歳に到達したら国民年金に加入し保険料を納めておかないと受給資格を満たせず、障害を負った際に一生年金を受給できなくなるおそれがあります。
しかし、その重要性が十分に国民に浸透しているとはいえず、問題になるケースが後を絶たないといわれています。
「障害状態要件」では、障害認定日において障害の程度が定められた基準以上であることを要します。
国民年金の被保険者であれば1・2級、厚生年金保険等の加入者であれば1〜3級に該当していることが必要です。
この要件を判断する障害認定日は原則として初診日から1年6カ月を経過した日、この日以前に治癒や症状の固定があった場合はその日が該当します。
障害年金の申請において重要となる「初診日」とは、「障害の原因となった傷病について、初めて医師または歯科医師の診察を受けた日」と定義され、原則として年月日まで確定している必要があります。
初診日の証明は、受診した医師の書いたカルテに基づいて記述される「医証」によるのが原則ですが、カルテの保存期間は受診終了後5年となっているので、場合によってはカルテが既になく、医証以外のものによって初診を証明しなければならなくなります。
日本年金機構では、医証による初診日の証明書が入手できない場合、他に証拠になるものとして下記を挙げています。
これらを申立書に添付して提出し、初診日を確認することになります。
障害年金の請求には、医師に作成してもらう診断書の他にも「病歴状況申立書(国民年金用)」または「病歴・就労状況等申立書(厚生年金保険用)」等の必要な書類があります。
この申立書は発病・初診から現在までの受診状況、障害の状態や就労の状況等、年金請求人から説明をするための補足書類ですが、障害認定の可否や障害等級など基本的な決定事項において、この書類の記述内容が大きく影響を与えます。
障害年金の請求方法は、大きく分けて3種類あります。
「障害認定日請求」では請求時期が大幅に遅れても、最大5年分を遡及して受給することができます。
「事後重症請求」と「はじめて2級の請求」では、遡及請求はできず請求手続きを行った月の翌月分から年金を受給できるようになります。
国民年金・厚生年金の受給者は、引き続き受給権を有しているかどうかを確認するため定期的に現況届の提出が必要とされてきましたが、住基ネットの整備等により、原則として提出の必要がなくなっています。
ただし、障害年金の受給者については、必要に応じて診断書の添付された「障害状態確認届」が送付されます。
診断書は医師にあらためて記入をしてもらったものを提出し、レントゲンフィルムが必要な場合はそれも添付します。
診断書の記述内容が従前のものと変わると、等級が更新され受給額が変更になる可能性があるので、医師に記載してもらう際にはよく内容を確認しておくことが必要になります。
平成23年8月5日に改正された「国民年金・厚生年金保険障害認定基準では、「精神の障害」に関する認定基準、認定要領が従前と比べて格段に詳細なものになりました。
「発達障害」が「知的障害」から独立した類型になったことや、知的障害の等級を判断する上での「日常生活」の状況についての記述がより具体的になったことが当時の改正の大きな特徴です。
これに伴い障害年金診断書の様式も変更され、日常生活についての記述に重きを置かれるようになっています。(同認定基準の最新の改正は平成25年6月1日)
「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」では、「精神の障害」の認定要領について5項目に区分しています。
Aの「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」と「気分障害(いわゆるそううつ病)」は異なる疾患ですが、障害の認定要領においては同じ項目にまとめられています。
統合失調症等の症状については「残遺状態又は病状があり、その高度性の度合いに応じで、また人格変化・思考障害、妄想・幻覚等の異常体験の有無や度合いに応じて下記のように分類されています。
うつ病、双極性障害などの気分障害については、「気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期」があり、その度合いや持続性・反復性の有無に応じて上記と同様に分類されています。
「気分変調症」は軽いうつ状態が長く続くもので、たまに大きな落ち込みが見られるものの、ほとんどの場合は症状が軽く、日常生活に大きな支障はありませんが、治療せずに長引かせていると重いうつ病になるおそれがあります。
障害年金の支給申立てに対しても、気分変調症は通常うつ病より認定されにくいものと考えられますが、可能な限り詳細かつ的確な内容を記すべく診断書の書き方に注意して申立てを行った結果、2級の障害年金が支給されることとなったケースもあるようです。
認定要領では、BまたはCに分類される「症状性を含む器質性精神障害、「てんかん」についても、妄想・幻覚等があるものについてはAの「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」に準じて取り扱うこととしています。
また、神経症は原則として認定の対象となりませんが、臨床症状から精神病の病態を示しているものについては、Aの項目に準じて取り扱うとしています。
Bの「症状性を含む器質性精神障害(高次脳機能障害を含む)」とは、「先天異常、頭部外傷、変性疾患、新生物、中枢神経等の器官障害を原因として生じる精神障害に、膠原病や内分泌疾患を含む全身疾患による中枢神経障害等を原因として生じる症状性の精神障害を含むもの」と定義されています。
アルコールや薬物などの使用による精神・行動の障害についても取り扱うものとしています。
症状性を含む器質性精神障害では、「認知障害、人格変化その他の精神神経症状」の有無や度合いで障害等級を判断します。
Aの場合と同様に、「常時の援助が必要なもの」を1級、「日常生活が著しい制限を受けるもの」を2級、「労働が著しい制限を受けるもの」を3級とし、C以下の項目についても同様に扱っています。
脳の器質障害については、精神障害と神経障害を区分して考えることが不可能であることから、表れている諸症状を総合して全体像から総合的に判断するとしています。
「日常生活の能力」の判定は、「身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める」とし、他の項目にも共通しています。
また、現に就労している者については、「労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで」能力の程度を判断することとされています。
Cに該当する「てんかん」の発作は出現する臨床症状が多彩で、薬物療法で消失するものから、抑制ができない「難治性てんかん」まで様々です。
認定基準では、てんかんの発作を「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作」「意識障害の有無を問わず、転倒する発作」「意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作」「意識障害はないが、随意運動が失われる発作」の4つに区分し、それぞれの発作の頻度で1〜3級の認定を行うようになっています。
Dの「知的障害」とは、知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に持続的な支障が生じているため、何らかの特別な援助を必要とする状態にあるものをいいます。
「知的障害があり、食事や身のまわりのことを行う」能力や「会話による意思の疎通」の能力の度合いにより、援助が「常時」必要かどうかで1級と2級を区分し、そこまでの程度に至らないものでも知的障害によって労働が著しい制限を受けるものを3級としています。
Eの「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものをいいます。
発達障害の場合は、知能指数そのものは低くないものの、社会行動やコミュニケーション能力に障害があるため対人関係や意思疎通がうまくできないというケースが一般的なため、症状よりは日常生活に制限を受けることに着目して認定を行うものとしています。
また「発達障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定する」としています。
障害年金の請求内容の審査は、障害基礎年金であれば各都道府県にある日本年金機構の事務センター、障害厚生年金であれば全国共通で、日本年金機構の中にある障害年金事業部1カ所で行っています。
障害年金の事務は特に複雑なため、年金事務所の職員でも勘違いや思い込みに陥りやすいといわれているので、申請を代行する社会保険労務士はじめ受給者を支援する者は、年金事務所においても職員への十分な説明と再確認が必要であると考えられています。
障害年金の請求において老齢年金や遺族年金と大きく違う点の一つに、「医師との関わりが強い」ことが挙げられます。
医師は必ずしも障害年金に詳しいわけではありません。
それでも医師に診断書を書いてもらえなければ年金の受給ができないので、社会保険労務士等の支援者は根気よく医師と折衝していかなければならないこともあります。
また社労士といえども、ある程度の医学の知識を持っておくことが重要であるともいわれています。
障害年金を受給するための診断書を作成するにあたっては、医師の作成するカルテに記される医学的な情報だけでなく、患者が普段の生活で適切な食事や金銭管理、身辺の安全保持などを行なえるかどうかといった「日常生活の状況」について詳細に記述する必要があります。
社会保険労務士がこのような状況下で医師と折衝する際には、年金の受給を希望する患者本人や介護者などの援助者から得たこれらの情報を医師に伝え、的確な審査結果を得られる診断書作成に役立ててもらえるように努めることが重要といわれています。
障害年金を多く手掛ける社労士からは、障害厚生年金の3級と2級では支給額に80万円近くの差が出る場合があることや、最大5年の遡及請求ができれば障害基礎年金の2級で400万円近くが得られることなどを説明し、医師に診断書の重みを実感してもらうことも有効である、という話も聞かれます。
障害年金の不服申し立ての流れは老齢・遺族年金と基本的には同様です。
決定の通知を受け取ってから60日以内に地方厚生局の社会保険審査官に審査請求を行い、審査官の決定に不満があれば決定書が送付された日の翌日から60日以内に厚生労働省内の社会保険審査会に再審査請求を行います。
精神障害での障害年金の不服申し立ての内容として特徴的なのは、障害の状態の程度に関するものと傷病名の判断に関するものが目立つことが挙げられます。
傷病名の判断については、診断書に「人格障害(パーソナリティ障害)」や「神経症」が原因傷病として記述されているために、障害年金の対象傷病名として不支給決定がなされる場合があります。
そのためにも診断書は医師とよく話し合って作成し、何度も確認を行う必要があります。